線型写像がベクトルをゼロに送るとき、それは実質的にそのベクトルを消している——何もない点に押しつぶしている。核(kernel)はそのようなベクトルをすべて集め、写像がどれだけの「情報」を破壊するかを正確に示す。核を理解すると写像が可逆かどうかがわかり、線型方程式系の解集合の構造が得られる。
定義
線型写像 T:V→W の核(核空間(null space)とも)とは、T がゼロに送るすべての入力の集合だ:
ker(T):={v∈V:T(v)=0W}.
核は定義域 V の中に住む。T(0V)=0W が線型性から常に成り立つため、いかなる場合も 0V∈ker(T) となり、核は常に空でない。
核は部分空間
主張:ker(T) は V の線型部分空間だ。
証明:0V∈ker(T) はすでに知っているので ker(T) は空でない。u,v∈ker(T) と c,d∈F を任意に取る。T の線型性から:
T(cu+dv)=cT(u)+dT(v)=c⋅0W+d⋅0W=0W.
したがって cu+dv∈ker(T)。部分空間判定基準により、ker(T) は部分空間だ。□
行列の核
行列 A∈Mm,n(F) に対応する線型写像は TA(x)=Ax(線型写像で定義)だ。その核は:
ker(A):={x∈Fn:Ax=0},
これはちょうど線型方程式系で導入した同次方程式系 Ax=0 の解集合だ。
核の計算
ker(A) を求めるには、A 自体にガウス・ジョルダン消去法を適用する(拡大行列ではなく——右辺は 0 なので変換全体を通じて 0 のままだ)。A の RREF において:
- ピボット列に対応する変数が基本変数;自由変数を選べばその値が決まる。
- 自由列に対応する変数が自由変数;各変数にパラメータ(t1,t2,…)を割り当てる。
一般解をベクトルの線型結合(自由変数ごとに一つ)として書く。それらのベクトルが ker(A) の基底をなす。
計算例
次の行列の ker(A) を求める:
A=(122436).
ガウス・ジョルダン:R2←R2−2R1 で:
(102030).
これがすでに RREF だ。列 1 が唯一のピボット列;列 2 と 3 が自由列。x2=s、x3=t を自由に設定する。すると x1=−2s−3t。一般解は:
x=s−210+t−301,s,t∈F.
したがって ker(A)=span{(−2,1,0)⊤,(−3,0,1)⊤}、F3 の二次元の部分空間だ。
単射性
核はちょうど T が単射(一対一)でない場合を特徴付ける。
定理:T:V→W が単射 ⟺ ker(T)={0V}。
証明:(⇒)T が単射で T(v)=0W=T(0V) ならば v=0V。(⇐)ker(T)={0V} と仮定して T(u)=T(v) とする。T(u−v)=T(u)−T(v)=0W より u−v∈ker(T)={0V}、したがって u=v。□
直観的に:写像が単射であることはちょうどゼロで(どこでも)「衝突」がない場合だ。核が {0V} より大きければ、複数の異なる入力が同じ出力に写り、T は可逆でない。
正方行列 A∈Mn,n(F) に対して、単射性は同次方程式系 Ax=0 が自明解しか持たないことと等価だ——すなわち RREF において A のすべての列がピボット列であることと等価だ。
零化次元(nullity)
T の零化次元(nullity)とは核の次元だ:
nullity(T):=dim(ker(T)).
上の例では nullity(A)=2 だ。零化次元は核の中にある「自由度の次元数」——T によって零に押しつぶされる線型独立な方向の数——を数える。
零化次元と T のランク(像の次元)の関係は次元定理で精密に述べられる。
まとめ
- T:V→W の核は ker(T)={v∈V:T(v)=0W} であり、常に V の部分空間だ。
- 行列 A に対して、核は同次方程式系 Ax=0 の解集合だ。
- ker(A) の計算:A を RREF に簡約し、自由変数にパラメータを割り当て、解を基底ベクトルの線型結合として書く。
- T が単射であることは ker(T)={0V} と同値だ。
- 零化次元は dim(ker(T)) であり、ゼロに押しつぶされる次元の数を数える。