集合(set)は、現代数学のほぼすべての土台になっている。関数、数列、確率空間、さらには自然数そのものも、突き詰めれば集合を使って定義される。本格的な数学を読んだり書いたりするには、集合に慣れ親しんでおくことが欠かせない。
集合とは何か
集合とは、異なるオブジェクトを順序なしで集めたものだ。集合に含まれるオブジェクトを元(または要素)と呼ぶ。
集合を記述するもっとも直接的な方法は、波括弧の中に元を列挙することだ:
A={1,2,3}
ふたつのことを覚えておこう:
- 順序は関係ない。 {1,2,3} と {3,1,2} は同じ集合だ。
- 重複は無視される。 {1,1,2,3} は {1,2,3} と同じ集合だ。
帰属関係
記号 ∈ は「〜の元である」を意味する。その否定 ∈/ は「〜の元でない」を意味する。
2∈{1,2,3}5∈/{1,2,3}
標準的な数の集合
特定の数の集合は非常によく登場するため、専用の記号が割り当てられている:
| 記号 | 名称 | 元 |
|---|
| N | 自然数 | 0,1,2,3,… |
| Z | 整数 | …,−2,−1,0,1,2,… |
| Q | 有理数 | 21,−43,7,… |
| R | 実数 | π,2,−1.5,… |
| C | 複素数 | 1+2i,−i,… |
慣習について: 0∈N かどうかは著者によって異なる。このシリーズでは、0 は自然数として扱う。
内包的記法
小さな集合なら元を列挙できるが、興味深い集合の多くは大きすぎるか、無限集合であるため列挙できない。内包的記法(set-builder notation)を使えば、元が満たすべき性質によって集合を記述できる:
{x∈R∣x>0}
これは「x>0 を満たす R の元 x 全体の集合」、つまり正の実数全体を表す。縦棒 ∣ は「〜を満たす」という意味だ。コロンを使った書き方 {x∈R:x>0} も見かけることがある。
より一般的には:
{x∈S∣P(x)}
は、述語 P が成り立つ S の元全体からなる部分集合(subset)を表す。
空集合
空集合(empty set)∅(または {} とも書く)は、元をひとつも含まない唯一の集合だ。すべてのオブジェクト x に対して x∈/∅ が成り立つ。
空集合は集合論において、算術における 0 と同じ構造的役割を果たす。
部分集合
集合 A が B の部分集合(subset)であるとは、A のすべての元が B の元でもあることをいい、A⊆B と書く:
A⊆B:=∀x,x∈A⇒x∈B
A⊆B かつ A=B のとき、A は B の真部分集合(proper subset)であるといい、A⊊B と書く。
覚えておくべき事実:
- ∅⊆A(すべての集合 A に対して)。
- A⊆A(すべての集合 A に対して)。
- N⊊Z⊊Q⊊R⊊C。
集合の等しさ
ふたつの集合が等しいのは、まったく同じ元を含むときだ。A=B を示す標準的な方法は、互いに相手の部分集合であることを示すことだ:
A=B⟺A⊆B かつ B⊆A
つまり、集合はその元だけによって完全に決まる——どんな書き方をしたかは関係ない。
基本的な集合演算
集合 A と B が与えられたとき、以下の演算によって新しい集合を作れる。
和集合
和集合(union)A∪B は、A か B か、あるいは両方に属するすべての元を集めたものだ:
A∪B:={x∣x∈A または x∈B}
共通部分
共通部分(intersection)A∩B は、A と B の両方に属する元だけを残したものだ:
A∩B:={x∣x∈A かつ x∈B}
A∩B=∅ のとき、これらの集合は互いに素(disjoint)であるという。
差集合
差集合(set difference)A∖B(「A から B を引いたもの」と読む)は、A の元のうち B に属さないものからなる:
A∖B:={x∣x∈A かつ x∈/B}
補集合
議論する集合がすべて固定された全体集合(universal set)U の中にあるとき、A の補集合(complement)は U の元のうち A に属さないものすべてだ:
Ac:=U∖A={x∈U∣x∈/A}
濃度
有限集合 A の濃度(cardinality)∣A∣ は、A が含む元の個数だ:
∣{a,b,c}∣=3,∣∅∣=0
N や R のような無限集合に対しても濃度は意味を持つが、より慎重な扱いが必要になる。無限集合の濃度の完全な理論は、後のチェックポイントで扱う。
まとめ
- 集合は異なるオブジェクトを順序なしで集めたもので、{a,b,c} や内包的記法 {x∈S∣P(x)} で表す。
- x∈A は x が A に属することを、x∈/A は属さないことを意味する。
- 空集合 ∅ は元を持たず、すべての集合の部分集合だ。
- A⊆B は A のすべての元が B にあること;A=B は A⊆B かつ B⊆A であること。
- 基本演算:和集合(A∪B)、共通部分(A∩B)、差集合(A∖B)、補集合(Ac)。
- 濃度 ∣A∣ は集合が持つ元の個数を表す。