どんな集合にも、隠れた相棒がいる。それはその集合のすべての部分集合からなる集合で、冪集合(べきしゅうごう、power set)と呼ばれる。冪集合は元の集合よりも必ず真に大きくなる — 無限集合であっても例外ではない。冪集合は組合せ論、論理学、位相幾何学、計算機科学など幅広い分野に登場するので、早めに理解しておくと後々とても役に立つ。
定義
A を集合とする。A の冪集合 P(A) は、A の部分集合をすべて元として持つ集合として定義される:
P(A):={S∣S⊆A}.
P(A) の元はそれ自体が集合であるという点が、最初はちょっと不思議に感じるかもしれない。どんな A に対しても、必ず P(A) に含まれると保証される部分集合が2つある:
- ∅∈P(A):空集合はすべての集合の部分集合だから。
- A∈P(A):A は常に自分自身の部分集合だから。
冪集合を順番に構成する
A={1,2,3} としよう。すべての部分集合を大きさごとにまとめると次のようになる:
| 大きさ | 部分集合 |
|---|
| 0 | ∅ |
| 1 | {1}, {2}, {3} |
| 2 | {1,2}, {1,3}, {2,3} |
| 3 | {1,2,3} |
したがって:
P({1,2,3})={∅,{1},{2},{3},{1,2},{1,3},{2,3},{1,2,3}}.
元の数を数えると 8 個ある。
冪集合の濃度
元の個数が ∣A∣=n の有限集合 A に対して、
∣P(A)∣=2n.(1)
なぜ 2n なのか? A の n 個の元それぞれについて、「部分集合に含める」か「含めない」かの2択がある。n 個すべての選択の組み合わせの総数は
n 個2×2×⋯×2=2n
となる。これが P(A) を 2A とも書く理由だ。
例で確認。 ∣{1,2,3}∣=3 なので、∣P({1,2,3})∣=23=8。上で列挙した8つの部分集合と一致する。
小さいケースをいくつか覚えておくと便利だ:
| ∣A∣ | ∣P(A)∣ | 例 |
|-------|--------------------|----|
| 0 | 1 | P(∅)={∅} |
| 1 | 2 | P({a})={∅,{a}} |
| 2 | 4 | P({a,b})={∅,{a},{b},{a,b}} |
| 3 | 8 | (上の例のとおり) |
| 10 | 1024 | — |
P(∅)={∅} は元を1個(空集合そのもの)持つことに注意 — 0個ではない。
二進文字列との対応
各部分集合 S⊆A には、A のどの元が S に含まれるかを示す特性関数(とくせいかんすう、characteristic function)が対応する:
1S:A→{0,1},a↦{10a∈Sa∈/S
A={1,2,3} で元の順序を (a1,a2,a3)=(1,2,3) とすると、P(A) と長さ3の二進文字列の間に全単射(ぜんたんしゃ、bijection)が得られる:
| 部分集合 | 二進文字列 (a1,a2,a3) |
|---|
| ∅ | (0,0,0) |
| {1} | (1,0,0) |
| {2} | (0,1,0) |
| {3} | (0,0,1) |
| {1,2} | (1,1,0) |
| {1,3} | (1,0,1) |
| {2,3} | (0,1,1) |
| {1,2,3} | (1,1,1) |
長さ3の二進文字列はちょうど 23=8 個あり、これは式 (1) を独立に裏付けている。
この全単射 P(A)≅{0,1}A が、表記 2A の深い意味だ:2 は集合 {0,1} を表し、{0,1}A は A から {0,1} へのすべての写像の集合を意味する。
無限集合の冪集合
無限集合に対しては式 (1) はそのまま使えないが、本質的な考え方は生き続ける。カントールの定理は、任意の集合 A に対して A から P(A) への全射(ぜんしゃ、surjection)は存在しないと述べている。すなわち:
∣A∣<∣P(A)∣
これは、A から P(A) への単射(a↦{a} という写像)は存在するが全単射は存在しないという意味だ。冪集合は、たとえ両方が無限であっても、元の集合よりも必ず真に大きい。
まとめ
- 冪集合 P(A) は A のすべての部分集合からなる集合で、その元は集合である。
- P(A) には必ず ∅ と A 自身が含まれる。
- 有限集合に対しては ∣P(A)∣=2∣A∣ — 元を含めるかどうかの二択の組み合わせ分だけ部分集合がある。
- 各部分集合は長さ ∣A∣ の二進文字列に対応し、全単射 P(A)≅{0,1}A が得られる。これが別表記 2A の由来だ。
- カントールの定理:任意の集合 A に対して P(A) は A より真に大きく、A から P(A) への全射 A↠P(A) は存在しない。