ガウス・ジョルダン消去法はピボットと自由列を通じて Ax=b の解を分類する。ランク(rank)はたった一つの数で同じ情報をより簡潔に表す。rank(A) と rank([A∣b]) を比較すれば解の存在が分かり、rank(A) と n を比較すれば解がただ一つかどうかが分かる。解が存在するとき、その全体はアフィン部分空間(affine subspace)——ker(A) を特殊解だけ平行移動した集合——を形成し、その次元はランク・零化域定理が正確に定める。
拡大係数行列のランク
拡大係数行列 [A∣b] は A と同じ m 行を持ち、列が一つ多い。行簡約すると、[A∣b] の RREF は A の RREF よりピボットが最大一つ多く、それは追加した最後の列にピボットが現れる場合に限る。したがって
rank([A∣b])={rank(A)rank(A)+1if b∈col(A),if b∈/col(A).
条件 b∈col(A) は Ax=b が解を持つための条件そのものであり、上の観察は偶然ではない。
整合性の判定条件
定理: 連立方程式 Ax=b が整合(少なくとも一つの解を持つ)であるための必要十分条件は
rank(A)=rank([A∣b])
が成り立つことである。
証明: [A∣b] を RREF に簡約して [R∣c] を得る。方程式が非整合であるのは、[R∣c] のある行が (00⋯0∣1) という形、すなわち最後の列にピボットが現れる形になる場合に限る。そのような行は A に由来しないピボットを [A∣b] に加えるから rank([A∣b])=rank(A)+1 となる。逆にそのような行が現れなければ [A∣b] の RREF は A の RREF と全く同じピボットを持つから rank([A∣b])=rank(A) となり、方程式は整合である。□
一意性の判定条件
方程式が整合、すなわち rank(A)=rank([A∣b])=r であると仮定する。A の RREF は r 個のピボット列と n−r 個の自由列を持つ。各自由列が一つの自由変数を生み、各自由変数が解集合の自由度を一次元増やす。したがって
- rank(A)=n のとき: 自由変数がなく、解は唯一。
- rank(A)<n のとき: n−rank(A)>0 個の自由変数があり、解は無限に多く存在する。
完全な分類
| 条件 | 結果 |
|---|
| rank(A)<rank([A∣b]) | 解なし |
| rank(A)=rank([A∣b])=n | 唯一解 |
| rank(A)=rank([A∣b])<n | 無限に多くの解 |
この三つの場合は網羅的であり、すべての連立方程式はそのうち正確に一つに当てはまる。
アフィン部分空間の構造
Ax=b が整合なとき、解全体は幾何学的に整った形をなす。
定理: xp を Ax=b の任意の特殊解とする。解全体の集合は
{x∈Fn:Ax=b}=xp+ker(A):={xp+h:h∈ker(A)}
である。
証明:
- (⊇)任意の h∈ker(A) に対して A(xp+h)=Axp+Ah=b+0=b が成り立つので、xp+h は解である。
- (⊆)任意の解 x に対して A(x−xp)=Ax−Axp=b−b=0 が成り立つから x−xp∈ker(A)、よって x=xp+(x−xp)∈xp+ker(A)。□
集合 xp+ker(A) は Fn のアフィン部分空間と呼ばれ、線形部分空間 ker(A) を特殊解 xp だけ平行移動したものである。これ自体が線形部分空間になるのは xp=0、すなわち b=0 のときに限る。
解集合の次元
ランク・零化域定理より nullity(A)=n−rank(A)。xp+ker(A) は ker(A) の平行移動であるから、ker(A) と同じ次元 n−rank(A) を持つ。
| rank(A) | nullity(A) | 解集合の形 |
|---|
| n | 0 | 一点 |
| n−1 | 1 | xp を通る直線 |
| n−k | k | xp を通る k 次元アフィン平坦 |
計算例
Ax=b を解く。ただし
A=(1224−1−2),b=(36).
ステップ 1: 整合性を確認する。 拡大係数行列を行簡約する。
(1224−1−236)R2←R2−2R1(1020−1030).
これが RREF である。ピボットは第 1 列の一つだけなので rank(A)=1、rank([A∣b])=1。等しいので方程式は整合である。
ステップ 2: 自由変数の個数を数える。 n=3、rank(A)=1 より自由変数は 3−1=2 個(x2 と x3)。解集合は 2 次元のアフィン部分空間である。
ステップ 3: 特殊解を求める。 自由変数をゼロに設定する: x2=0、x3=0。すると x1=3 となり
xp=300.
ステップ 4: ker(A) の基底を求める。 RREF から x1=−2x2+x3。パラメータ x2=s、x3=t を割り当てると
ker(A)=span⎩⎨⎧−210,101⎭⎬⎫.
ステップ 5: 解全体を記述する。 アフィン部分空間定理より
x=300+s−210+t101,s,t∈F.
これは xp を通る F3 内の 2 次元アフィン平面である。
b=(3,7)⊤ の場合はどうなるか? R2←R2−2R1 を適用すると (0,0,0∣1) という行が現れ、最後の列にピボットが生じる。rank([A∣b])=2=1=rank(A) となり、方程式は解を持たない。
まとめ
- 整合性の判定条件: Ax=b が整合であるのは rank(A)=rank([A∣b]) のときかつそのときに限る。
- 一意性の判定条件: 整合な方程式が唯一解を持つのは rank(A)=n のときかつそのときに限る。
- 三つの場合: rank(A)<rank([A∣b]) は解なし、rank(A)=n は唯一解、整合かつ rank(A)<n は無限に多くの解。
- アフィン部分空間定理: 整合な方程式の解全体は、任意の特殊解 xp に対して xp+ker(A) ——核の平行移動——である。
- 次元: 解集合の次元はランク・零化域定理により nullity(A)=n−rank(A) である。