微積分学:総まとめ
Basis一変数微積分学は三つの柱——極限・導関数・リーマン積分——の上に成り立っており、それらがどう組み合わさるかを見ると学習全体が一本の流れとして見えてくる。この総まとめでは個々の定理から一歩引いて地図を描く。どの概念がどの概念の上に乗っているか、二つの側がどこでつながっているか、そしてこのコースを終えた先でそれぞれの柱がどこへ向かうかを概観する。
三つの柱
極限と連続性
微積分のあらゆる概念は極限として定義される。導関数は差商の極限、リーマン積分はリーマン和の極限、広義積分の収束は通常の積分の極限だ。極限はだから基礎中の基礎であり、その上に乗るすべての概念が暗黙的に極限に依存している。
連続性は極限によって初めて表現できる最初の構造的性質だ。 が で連続とは が成り立つことを意味する。閉有界区間上の連続関数は強い性質を持つ——最大値・最小値を達成し(最大値定理)、中間の値をすべて取る(中間値定理)。この二つの事実は後の証明で繰り返し使われる。
導関数
導関数 は の における接線の傾きで、極限によって定義される。
微分可能性は連続性を含意するが、真に強い条件だ。微分の計算法則——和・積・商・合成(チェーンルール)——は任意の初等関数を既知の導関数表への繰り返しの適用へと帰着させる。逆関数の微分の公式 はその表を対数関数や逆三角関数へと拡張する。
高階導関数 は曲率・凸性・振動を記述し、テイラーの公式への入力となる。
リーマン積分
リーマン積分 は閉区間上の有界関数に対して、上・下ダルブー和(Darboux sum)を用いて定義される。上和の下限が下和の上限に等しいとき は積分可能だ。リーマン積分可能な関数として重要な二つのクラスがある。単調関数と、不連続点が高々有限個の関数だ。連続関数は常に積分可能で、ディリクレ関数(有理数・無理数の指示関数)は積分不可能な典型例だ。
柱のつながり:微積分の基本定理
初等微積分において最も深い結果はニュートン・ライプニッツ公式だ。
ここで は の任意の原始関数(不定積分)、すなわち となる関数だ。この公式は論理的に独立な二つの部分からなる。
- FTC1: が 上で連続ならば、 は微分可能で が成り立つ。
- FTC2: が の任意の原始関数ならば、 が成り立つ。
FTC1 は微分と積分が逆演算であることを言う。FTC2 は定積分——和の極限——を計算する問題を、原始関数を見つけるという代数的な作業へと変換する。この橋なしでは二つの柱は孤立したままだが、この橋があれば一方の技術が即座にもう一方へと転用できる。
平均値定理のファミリー
一つのアイデア——関数を割線の傾きと比較すること——が微分の側のほぼすべての非自明な定理を貫いている。
ロールの定理が出発点だ。 が 上で連続、 上で微分可能、かつ ならば、ある で が成り立つ。
ラグランジュの平均値定理はこれを一般化する。ある で が成り立つ。これは単調性テスト(正の導関数は単調増加を意味する)、「零導関数を持つ関数は定数」という方向の証明、そしてテイラーの公式の核心であるラグランジュ剰余の導出に使われる。
コーシーの平均値定理は比の形だ。ある で が成り立つ。これは 型の不定形に対するロピタルの定理の証明における鍵となる。
積分の側では、積分の平均値定理はある で が成り立つことを言う。FTC1 が の差商の極限を と同定するときに使うのがこれだ。
微分と積分の二つの平均値定理のファミリーは並行した発展ではない。ニュートン・ライプニッツ公式を証明可能にする原動力だ。
微分の深部:凸性とテイラー展開
凸性
区間上で 凸(convex)であるとは、すべての弦がグラフの上側か上にあることを意味する。微分による特徴づけはこの幾何的条件を解析的条件へと変換する。 が凸であることは が単調非減少であることと同値で、 が二階微分可能ならば とも同値だ。凸性は第二導関数の知識を必要とせず、 の単調性——ラグランジュの平均値定理がすでに制御している——に直接つながる。
イェンセンの不等式は有限点への一般化だ。凸関数 と に和する非負重み に対して、
が成り立つ。この一つの不等式が古典的不等式の多く(相加・相乗平均の不等式、ヘルダーの不等式など)の根拠になる。機械学習では EM アルゴリズムの導出や変分下界の計算に現れる。
テイラーの公式
テイラーの公式は 階微分可能な関数を 次テイラー多項式と明示的な剰余の和として表す。
剰余のラグランジュ形式は補助関数にロールの定理を適用することで導かれるので、テイラーの公式は平均値定理のファミリーの直系の子孫だ。主な使い道は二つ。誤差評価を伴う多項式近似と、(繰り返しのロピタル適用よりクリーンな代替として)不定形極限の機械的計算だ。
積分の深部:計算と拡張
置換積分と部分積分
二つの積分技法が定積分を扱いやすい形に変換する。変数変換の公式
は合成された原始関数をチェーンルールで微分し、ニュートン・ライプニッツを適用することで導かれる。部分積分
は積の微分則から同じように導かれる。どちらも FTC2 を巧みに選んだ原始関数に適用した系だ。
広義積分
区間が有界でないか被積分関数が端点で発散する場合、 は通常の積分の極限として定義される。広義積分の収束判定は級数の収束判定と対応する。比較判定・極限比較判定、そして振動型被積分関数(たとえば )向けのアーベル・ディリクレ判定(Abel–Dirichlet criterion)だ。アーベル・ディリクレ判定は振動部分を制御するために積分の第二平均値定理を使う。
各柱の先にあるもの
一変数微積分学は出発点であり、到着点ではない。
凸性 → 凸解析(convex analysis)。 イェンセンの不等式と微分による凸性条件は、凸集合・凸関数上の最適化を研究する凸解析への入口だ。劣微分(subdifferential)は非滑らか凸関数において導関数の役割を担い、双対理論(duality theory)は接線による凸性の特徴づけを一般化する。
リーマン積分 → ルベーグ積分。 リーマン積分には限界がある。不連続点の集合が「小さい」こと(ルベーグの判定条件では測度零)が必要であり、関数の各点収束との相性もよくない。ルベーグ積分(Lebesgue integral)は面積を縦のスライスではなく横のスライスで測り、はるかに広い積分可能関数のクラスを扱え、極限定理(単調収束定理・優収束定理)もずっと整然としている。リーマン積分は計算のための道具、ルベーグ積分は解析のための道具だ。
まとめ
- 極限は共通言語だ。導関数・積分・連続性・広義積分はすべて極限として定義される。
- 上の連続性は最大値定理(最大・最小を達成する)と中間値定理(中間の値をすべて取る)を与える。どちらも主題全体で暗黙に使われる。
- 導関数は差商の極限で定義される。微分法則(積・合成・逆関数)は任意の初等関数を既知の表へと帰着させる。
- リーマン積分は上・下ダルブー和の共通極限だ。単調関数と区分連続関数は積分可能で、ディリクレ関数は積分不可能だ。
- ニュートン・ライプニッツ(微積分の基本定理)が二つの側を橋渡しする。 が上限可変積分のとき 、任意の原始関数 に対して 。
- 平均値定理のファミリー(ロール → ラグランジュ → コーシー → テイラー;積分の平均値定理)が両側のほぼすべての非自明な証明を駆動する。
- テイラーの公式は を 次多項式で近似し、剰余は によって制御される。、、、 の標準的な級数展開は とすることで得られる。
- 凸性は で特徴づけられる。イェンセンの不等式はそれを有限個の重み付き和に拡張し、凸解析への扉を開く。
- 変数変換 と部分積分はどちらも、巧みに選んだ原始関数への FTC2 の適用として導かれる系だ。
- 広義積分 は通常の積分の極限であり、収束判定は級数の判定と対応する。振動型のケースはアーベル・ディリクレ判定が積分の第二平均値定理を通じて処理する。
- 自然な拡張は凸解析(凸性とイェンセンから)とルベーグ積分(リーマン積分から)で、後者は厳密な確率論と関数解析に必要だ。